「シロアリは木を食べる虫」というイメージがある一方、“木以外のものも噛む”という厄介な側面があるのをご存じでしょうか。
たとえば段ボールや紙、布、断熱材、場合によってはプラスチックの薄板や柔らかい配線被覆、鉄道の信号ケーブル、金属類といったものまで噛んだり齧ったりします。
噛み跡は目立ちにくく、気づいたときには柱の空洞化や床の沈み込みなど、建物の構造に波及していることも少なくありません。
本記事では、シロアリが何を噛むのか、なぜ噛むのか、どのように噛むのかといったことを具体的に解説し、被害のサインや予防・初期対応、そして専門点検へつながる実務的な流れまで、わかりやすく紹介します。
シロアリとは(※アリ=ハチ目とは別系統)

【分類と系統】シロアリは “白いアリ”ではなくゴキブリ目の仲間
シロアリは名前に「アリ」とつきますが、分類学上はゴキブリ目(Blattodea)のシロアリ下目(Isoptera)に属する社会性昆虫で、アリ(ハチ目:Hymenoptera)とは系統が異なる生き物です。
女王を中心に高度な社会性を発達させ、数十万〜数百万規模のコロニーを形成します。
生態系では枯死植物のセルロースを分解して循環させる重要な役割を担う一方、人間の居住環境では建材や調度品を噛んで・食べてしまう厄介者となります。
【変態様式と形態】 等翅とくびれなしが見分けのポイント
シロアリは不完全変態で、幼虫は成虫に似た姿です。
群飛期に現れる有翅成虫は4枚の翅がほぼ同じ大きさ(等翅)で、飛行して着地後に付け根から翅が抜け落ちます。
触角は数珠状、胸部と腹部の間にくびれがない(アリは細いくびれが明瞭)など、見分けるためのポイントが存在します。
【社会構造】各階級に雌雄が存在
コロニーは王・女王(生殖虫) / 擬職蟻(働き) / 兵蟻で構成され、各階級に雌雄が含まれるのが基本です。
対してアリは女王と不妊雌の働きアリが中心で、雄は繁殖期に一時的に現れます。役割分担は似ていても、成立の仕組みが大きく異なっています。
日本で主要なシロアリと生態型
日本には4科13属20数種のシロアリが生息しています。
その中で、住宅被害の多くは地下シロアリ型の「ヤマトシロアリ」と温暖沿海部に生息する「イエシロアリ」によるものです。
- ヤマトシロアリ:全国に分布し被害件数が多い
- イエシロアリ:主に西日本(温暖沿海部)に分布し、加害スピードが速く被害が大きくなりやすい
近年は乾材に営巣できるアメリカカンザイシロアリ(外来・乾材型)が都市部の輸入材や家具を介して被害を広げるケースも報告されています。
生態学的には湿材シロアリ / 乾材シロアリ / 地下シロアリの3区分で理解すると、発生源や侵入経路の想定がしやすくなります。
シロアリは何を噛むのか?木材以外も対象になる理由とは

キーワードはセルロース
シロアリは、木材や紙・段ボールなどに含まれるセルロースを主な栄養源とします。
噛む=採食である場合はもちろん、蟻道(ぎどう:土や糞、木屑で作るトンネル)を通すために素材を削る・噛みほぐす、あるいは巣材として持ち帰るといった行動でも“噛む”ことが起こります。
シロアリが噛む具体例
- 木材(柱・根太・合板・巾木・ドア枠・巾木の裏など)
- 紙・段ボール・書籍(セルロースの塊で要注意)
- 畳・布・壁紙下の紙層、断熱材の紙フェース
- 圧縮の弱いMDF・パーティクルボードなどの木質系二次製品
- 鉄道の信号ケーブル、配線、ビニールコード
“噛む”と“食べる”の境界
蟻道を通すために邪魔なものを“噛んで除去”しているのか、栄養として“食べている”のかを厳密に見分けるのは難しいことがあります。
いずれにせよ、素材が削られ、強度や気密・防湿が破壊されるという点が実害であり、建物内部への侵入・拡大を容易にします。
生活圏で噛まれやすい物品と典型的な被害

屋内:見えない場所の紙・木質系に注意
屋内では、押し入れや床下収納、納戸などに段ボールや紙袋を長期間置いておくと、シロアリの餌場になりやすく危険です。
水回り周辺も湿気がこもりやすく、配管まわりの木部や収納の背板は気づかないうちに噛まれることがあります。
さらに、ドア枠や鴨居、巾木裏なども内部が空洞化している場合があり、見た目だけでは判断できません。
紙は木の加工品。断熱材のクラフト紙や石膏ボードの紙層、ダンボールや帳簿などの資料も被害を受けることがあります。
屋外:地面に近い紙・木と“見えない蟻道”
屋外では、勝手口やデッキ、濡れ縁の下、さらには物置の床が地面に接している部分などが危険です。
常に湿気を帯びやすく、目に見えないところでシロアリが活動していることがあります。
また、ウッドチップやバーク堆肥、薪置き場といった場所は「湿り気・餌・隠れ場所」の三拍子が揃いやすく、シロアリの生息条件を満たしています。
基礎の立ち上がり周辺も同様で、マルチング材や植栽が蟻道を覆い隠し、発見を遅らせることが少なくありません。
噛み進められた後に起こること
被害が進むと、床の沈み込みやきしみが出てきて、踏んだときに中が空洞のような軽い音がすることがあります。
ビスが効かなくなり、巾木を外すと土でできた蟻道が露出するケースも多いです。
壁紙が局所的に膨らんだり、クロスのめくれ部分から紙層の食痕が確認できることもあり、見た目以上に内部で被害が進行していることがあります。
シロアリ被害のサインとは?

シロアリ被害の視覚サイン
シロアリ被害の視覚的なサインとしては、基礎や束石、配管まわり、巾木裏などに土でできた蟻道が見られることがあります。
また、木屑や砂粒状の糞が落ちていたり、段ボールの繊維が毛羽立つように削られているのも典型的な兆候です。
群飛シーズンには窓辺や照明の下に羽アリの死骸や翅がまとまって残ることも珍しくありません。
- 蟻道:基礎の立ち上がり、束石、配管貫通部、巾木裏、床下の木部
- 食痕・フラス:木屑・砂粒状の糞、段ボールの繊維が毛羽立つような削れ
- 羽アリの死骸・翅:群飛シーズン後に窓辺や照明周りでまとまって見つかる
シロアリ被害の聴覚・触覚サイン
聴覚や触覚でのサインもあり、床や柱を軽く叩いたときに「コツコツ」と空洞音がしたり、針や千枚通しを刺すと簡単にズブッと入ってしまう場合は内部がスポンジ状に食われている可能性があります。
- コツコツと軽い音(内部がスポンジ状)
- 針や千枚通しで軽く突いてズブッと入る、表層だけ残して空洞化
シロアリ被害の季節・時間
発見のタイミングは季節や天候にも関係します。
地域や種によって群飛時期に大量の翅が落ちたり、雨の後や湿気の高い時期には活動が一気に活発化し、短期間で被害が進むことがあります。
- 群飛時期(地域・種で差はある)に窓際で大量の翅を発見
- 雨後・高湿期に活動性が上がり、短期間で進行することがある
噛ませない・侵入させない!シロアリ予防対策

湿気管理の徹底
シロアリ予防対策の基本は、まず湿気を徹底的に管理することです。
床下換気口が塞がれていないか、周囲の植物が繁茂して風通しを妨げていないかを確認し、必要に応じて除湿を行います。
さらに雨樋や排水設備を点検し、オーバーフローや水の跳ね返りによって基礎周辺が常に湿っていないかを確かめることも重要です。
脱衣所や洗面所、キッチンなど結露しやすい場所は、定期的に巡回して湿度の状態を確認すると安心です。
- 換気・除湿:床下換気口の塞ぎ・植物の繁茂で風が止まっていないか点検
- 雨樋・排水:オーバーフローや跳ね返り水で基礎周辺が湿っていないか
- 結露ポイント(脱衣所・洗面所・キッチン)を定期巡回
紙・木質の保管ルール
紙や木質の保管方法にも注意しましょう。
段ボールを床に直接置くのは避け、棚に上げたりプラスチック製のコンテナに入れ替えるようにします。
押し入れでは通気を確保し、季節ごとに中身を入れ替えて長期間放置しないことが大切です。
また、改修時には断熱材の紙面や石膏ボードの切りっぱなし部分を無防備に残さないよう処理しておくと安心です。
- 段ボールの床直置き禁止。棚上げ・プラコンテナへ移し替え
- 押し入れの通気確保。季節ごとに入れ替えローテで長期放置を避ける
- 改修時は断熱材の紙面露出や石膏ボードの切りっぱなし紙を無防備にしない
屋外マルチング・資材の配置
屋外でも資材やマルチング材を使う場合に注意が必要です。
ウッドチップや薪は建物の基礎から距離を取り、厚く積みすぎないようにし、定期的にかき起こして点検します。
物置は束で浮かせるなど、地面と絶縁させて設置することが望ましいでしょう。ウッドデッキの根太や大引きは点検口を設け、内部が見えるようにしておくと、早期発見につながります。
建物の弱点を塞ぐ
建物そのものの弱点を塞ぐといったことも予防につながります。
配管まわりの隙間はしっかりとシーリングし、基礎にクラックがないか、土間の伸縮目地に異常がないかを定期的に観察しましょう。
さらに、既存の防蟻処理は永続的ではなく、一般的には5年程度で効果が薄れるとされているため、更新時期を把握して計画的に再施工することが推奨されます。
- 配管まわりの隙間をシーリングで充填
- 基礎のクラック・土間の伸縮目地周辺は定期観察
- 既存防蟻処理の更新時期を把握
シロアリの初期対応

避けたいNG行動
シロアリの被害に気づいたとき、多くの人が慌てて段ボールや家具を動かしてしまいますが、これはコロニーを分散させ、かえって被害の拡大を招く恐れがあります。
また、殺虫スプレーを乱用しても、一時的に表面のシロアリは減りますが、巣本体はそのまま残り、再発リスクが高まります。
さらに、蟻道を壊して「様子を見よう」とするのも避けたい対応です。これは活動の証拠を自分で消してしまい、正確な被害状況を把握しにくくしてしまうからです。
- 段ボールや家具を慌てて移動:コロニーの衛星化・拡散を招く恐れ
- 殺虫スプレー乱用:表層の個体は減っても巣本体は健在で再発リスク
- 蟻道を全部壊して様子見:観察情報を自ら消してしまう
正解の初動
では、正しい初動とはどのようなものなのでしょうか。
まずは被害箇所をそのままにして、蟻道や食痕、落ちた翅などを写真に残すことから始めます。証拠を記録することで、後の点検や駆除計画に役立ちます。
次に大切なのは、被害範囲を無理に広げないこと。無暗に剥がしたり壊したりせず、現状を保ったまま確認にとどめるのが賢明です。
その上で、できるだけ早く専門業者に点検を依頼し、床下や壁内の原因箇所や水分環境を診断してもらうことが重要です。
最終的には、点検結果に基づき、バリア工法やベイト工法といった防蟻処理に加え、湿気対策や再侵入経路の遮断を組み合わせることで、初めて再発を防ぐことができます。早期に正しい対応を取るかどうかが、その後の被害の広がりを大きく左右するのです。
- 写真を残す(蟻道・食痕・翅・日付・位置)
- 被害範囲の静的把握(無暗に剥がさない・壊さない)
- 早期に専門業者の点検を依頼。床下・壁内の“原因箇所”と“水分状況”を診断
- 診断結果に応じて、防蟻処理(バリア工法・ベイト工法等)+湿気是正+再侵入経路遮断を設計
“噛む”が被害拡大に繋がった3例

ケース1:押し入れ段ボールから巾木裏へ
長年動かしていなかった段ボール群の底面が毛羽立つ食痕だらけ。
巾木の裏には土の筋(蟻道)が連なり、石膏ボードの紙層も噛みほぐされていました。
床下を調べると、基礎の立ち上がり外側にウッドマルチが厚く敷かれ、見えない導線ができていたのが主因。屋外動線の是正+室内の紙資材撤去+防蟻ベイトで沈静化。
ケース2:シンク下配管まわりから内部木部へ
キッチンの配管貫通部の隙間から蟻道が立ち上がり、背板からキャビネット側板の木口へ。収納奥のクラフト紙(断熱材紙面)にも食痕が広がっていました。
応急処置としては片付けより記録が重要。点検後に貫通部の気密化・水漏れ是正・薬剤処理まで一気通貫で対応。
ケース3:ウッドデッキ下のマルチングが隠した侵入路
メンテを後回しにしたウッドチップ敷きが常時湿った状態を作り、デッキ束石から基礎外周→床下木部にかけて活動。
外観からは綺麗でも、裏側では噛み進めにより根太がスポンジ状。
敷材撤去・厚さと更新頻度の見直し・点検口新設で再発抑制へ。
「シロアリは“噛む”」を前提に、家のルールを変える

シロアリは木材だけでなく、紙や段ボール、木質系の二次製品や断熱材の紙フェースなど、私たちの生活に身近な素材を噛み、食べ、さらには通路として利用していきます。
こうした“噛む”行動は、侵入経路を広げる結果となり、気づいたときには柱や床下材が空洞化していることも珍しくありません。
被害を防ぐためには、湿気を管理すること、紙や木質素材の保管ルールを見直すこと、屋外マルチングの使い方を工夫すること、そして建物の弱点を塞ぐことが重要です。
万が一兆候を見つけた場合は、慌てて壊したり動かしたりせず、まずは記録を残し、その上で専門家による点検を受けることが最短の解決策となります。
【まとめ】シロアリ被害に心当たりがある方へ

段ボールの底が毛羽立っていたり、巾木の裏に土の筋が走っていたり、あるいは雨の後に大量の羽アリの翅が落ちているのを見つけたとしたら、それはシロアリ被害の典型的なサインです。
ひとつでも心当たりがある場合、自己判断で片付けたり放置したりするのは危険です。シロアリは短期間で被害を広げてしまうため、早めの点検や診断が、補修費用や生活への影響を最小限に抑える大切な手段となります。
シロアリ駆除の専門サービス「お助け本舗」では、建物や環境に合わせて点検や見積もり、防蟻処理(バリア工法やベイト工法)、さらに湿気対策まで一貫して対応が可能です。
被害が広がる前に、まずはお気軽にご相談ください。
